「いい子」の話
私は昔から、両親にとって「いい子」でありたかった。
褒められたかったから。認められたかったから。怒られたくなかったから。怒らせたくなかったから。両親が好きだから。
そんなことを私は子供ながらに思い、両親が求める「いい子」を目指した。
小学生の頃。
テストでいい点を取るのは当たり前。100点だっていっぱい取ったし、100点じゃなくても90点台がほとんど。でもそれが「当たり前」であって常に褒められるものでは無かった。80点台だと「ちょっと難しかった?」と聞かれた。
遊ぶ前に宿題を済ませなさいと言われたから、遊ぶ前に宿題を終わらせた。
他にも大きい事から小さい事まで「やりなさい」と言われれば必ずやったし、「やめなさい」と言われればどれだけやりたかったことでも少しは「嫌だ」と言ってみても結局私は我慢した。時には泣きながら我慢した。
遊びに行くと言えば私のママは「誰と」「どこへ行くの」「〇時には帰ってきなさい」と必ず言われた。
私はそれが昔から当たり前だったから最初は普通に答えてたし、高学年になっても、小学生の女の子だから心配なんだなくらいにしか思ってなかった。
これがどの家でも「普通」なのだと思っていた。
そして私が「いい子」になるための方法だった。
中学生になった。
相変わらず「誰と」「どこで」「何をするの」「暗くなる前には帰ってきなさい」だった。
これが「普通」だと思った。
でも、「暗くなる前に帰ってきて」とは言われたりするけど、そこまで詳しくは聞かれないと周りの友達に言われた。
相変わらず「やりなさい」「やめなさい」とママは言う。
だんだんママの言うことに縛られるのが嫌になった。
嫌になった私は勉強を頑張るのをやめた。
そしたらあっという間に馬鹿になった。
もちろん褒められなくなった。
でも、なんだかんだいい子ちゃんを完全にはやめられなくて、きっと親は私に反抗期はあったと言うのだろうが、私的には「あの時は反抗期だった」と思える時期がない。
だって「やめなさい」と言われたことはやめていたから。
この程度のわがままなら許されるというラインがなんとなく分かったりしたので、許される程度のわがままは沢山言ったけれど、私が本当にやりたかったことはだいたいダメだと言われ、その度にちゃんと我慢した。沢山我慢したよ。
高校生。
高校生になっても「誰と」「どこへ行くの」「何時に帰ってくるの」は言われ続けた。
いつまで聞いてくるんだと思った。
でも私はちゃんと答えてた。
2年生になると本格的に進路のことを決めていかなくてはならなかった。
私は特にこれを学びたいというのは無かった。
でも大学に行きたかった。大学で色々なことを見て、聞いて、学んで、そこから興味が出てやりたい事が見つかるのではと思ったから。
けれどママは「勉強嫌いなのにまだ勉強するの?」「やりたい事がないならお金が勿体無いし弟が小学生になるからそこでもお金が沢山いるからどうせなら働いて欲しい」と言った。
大学生にしかできないことは沢山あるはずで、経験は何よりも人生の財産になると思っていて、そこに無駄なものなんて何一つ無いと思った。
でも、ずっとママの言う通りの人生を歩いてきたから「働かなきゃ」となってしまった。
そして私は高校を卒業してすぐ社会人になった。
社会人になっても友達と遊ぶ時は「誰と」「どこに行くの」「何時に帰ってくるの」は変わらない。
いい子ちゃんでいるのも疲れて嫌になったはずなのに、それでも私はいい子ちゃんになりたかった。
昔からだった、褒められたい、いい子だと思われたい、という生き方は今更変えられないのだ。
私は「いい子」でいたいけど、「いい子」でいたつもりだけど、ママがダメだと思うことをやりたいと言ってしまっている時点で私は「いい子」ではないのだと社会人になってようやく気付いた。
ここまで干渉するのは心配してるからではなく、私のことを信用していないからだと気付いた。
私がママにそうさせてしまっているんだ。
だって私は「いい子」じゃないから。
だから叱られることも多くはなかったけれど褒められることも少なかったのか。
だって私は「いい子」じゃないから。
ここまで「いい子」にこだわる私は気持ちが悪いね。
でも沢山褒められたかっただけなんです。
少しでも自慢の娘になりたかったんです。
怒られたくなかったし怒らせたくなかったんです。
信用してほしかったんです。
それなのに出来損ないでごめんなさい。
本来の自分が何をしたいのかわからなくて、自分一人だと何もできません。
批判されるのが怖くて自分のことを話すのが今でもできません。
そして、自分の気持ちに従って気持ちを表すこともできず、怒りたくても気持ちを押し殺してしまいます。
一人じゃ自信がもてなくて、周りの評価がやたら気になってしまって怖くて自主的に動くのが苦手です。
私は何もできない。
気づいたら空っぽの人間で、いつから私はこんな中身のない人間になったのだろう。
親の望む子にどうして私はなれないのだろう。
「いい子」がこんなに苦しくてつらい。
こんなに息苦しいのに私がまだ「いい子」にこだわるのは。
産んでよかったと思われたいから、自慢の娘だと褒められたいからで。
そんな私の願いはいつまでも呪いのように私を縛りつける。
言うことを聞いてきたはずなのに、私は「いい子」になれなくて泣いてしまう時もあった。
強くなりたい。なろう。
いつか、パパやママでなくとも、私が大切に思う人が、私を「いい子」だと褒めてくれますように。
そして「いい子」に縛られる私を解放してくれますように。
そしたら今までの私が救われる気がするから。